Novenver 13, 2015
[INTERVIEW] 宮内優里 – 日常のなかで


宮内 優里 | Miyauchi Yuri

作曲家。1983年生まれ。これまでに5枚のアルバムをRallye Labelよりリリース。アルバムには高橋幸宏、原田知世、小山田圭吾、星野源など、国内外問わず様々なアーティストとのコラボレーション作品を収録。ライブでは様々な楽器の音をたった一人でその場で多重録音していく”音の実験室”ともいうべき空間を表現する。FUJI ROCK FESTIVALなど、各種フェスなどに出演。自身の活動以外では、映画「リトル・フォレスト」(監督:森淳一/主演:橋本愛)や 「グッド・ストライプス」(監督:岨手由貴子/主演:菊池亜希子、中島歩)などの映画音楽、NHK・Eテレのテレビ番組「Q~こどものための哲学~」や舞台・ドラマ・CMへの楽曲提供など、活動の幅を広げている。2015年11月に約3年ぶりとなる最新作『宮内優里』を発売予定。


その場で様々な楽器を使って音を録音し、ループさせながら楽曲をつくっていくスタイルの宮内氏のライブ。
目の前で音楽がつくられていく様子を初めて観たとき釘付けになったのを覚えている。

宮内氏の音楽は、電子楽器を使用し、ジャンルでいうと”エレクトロニカ”と言われるジャンルに属す。
地方で聴く機会の多くないため、都会的な印象を受ける音楽だ。

この秋、宮内氏がライブ出演のため徳島を訪れた。
その際に徳島の印象について、「僕の住んでいるところより全然栄えてますよ。」と言っていた。

宮内氏の住んでいるところは千葉県八街市(やちまたし)。
この写真は宮内氏の自宅から歩いて1分ほどのところに広がる風景だ。
千葉の中でも田舎のほうであり、畑などが広がり、電車も最寄駅まで歩いて30分くらいかかるそうだ。

その音楽性からはイメージしていなかったところで暮らしている。
その土地で宮内氏はどのように暮らし、楽曲制作を行っているのか伺ってみた。


 

自分の思考の外で

ー 楽曲制作などではどこからインスピレーション受けるのでしょうか。

僕はないんですよ。
これまではとにかくギターでもピアノでもなんでも適当にぐじゃぐじゃ弾いて、まぐれが出るまでフレーズみたいなものを探すところから始めていました。いいリズムやフレーズができたりしたら、そこに合う音を色々と重ねていきます。
でも最近はそのフレーズさえも作らないことが増えて、メトロノームを聴きながらレコーディングするんですけど、そのメトロノームのカチコチカチコチってのを聞きながら適当なタイミングで「バッ」って弾いたりとか、突然「ドンッ」って入れたりとか。いろんな音をなんとなく混ぜてみたりだとか、偶発的に音を足していきます。自分が思いつくんじゃなくて、自分の思考の外でまぐれを探してつくっていく感じです。僕、自分の思考は信用してないので、どうにかまぐれが出る方法を常に考えていますね。

ー “いい”を瞬時に判断できる音楽センスがないとできないことだと思うのですが、どこで培われたのでしょうか。

エレクトロニカという音楽に興味を持ち始めた頃、東京に”ジャニス”っていうレンタルレコード屋さんがあって、そこは大きなレコード屋さんでもないようななCDまでいっぱい置いていて、そこの近くでアルバイトしていたこともあって、毎週のように行って何十枚と借りて1ヶ月でいうと100枚とか借りてました。でも例えば30枚とか借りて1週間で全部ちゃんとは聴けなくて。だから失礼な聴き方なんですけど、いい音楽はどの瞬間を聴いてもいいって思うものだと勝手にルールを決めて、飛ばし聴きでとにかく好きな音楽を探してたんです。パソコンやプレイヤーで早送りしながら適当な秒数のところを数秒ずつ聴いていって、お!と思うような瞬間が何個も来る音楽はメモして、みたいな感じです。でも、本当にいいアーティストはどの瞬間を聴いてもいい音楽と感じたんですよね。その方法で好きなアーティストを見つけたらじっくり聴き込みました。
これは後で気がついたんですけど、その探し方のおかげで瞬時に音の好き嫌いを判断する力がなんとなくついた気がします。今もその判断力だけで曲をつくっている感じです。

ー こういう音楽をつくりたいっていうのでつくるのではなくて、その時思いついた音楽を突き詰めていくようにしているんですね。

そうですね、それが僕の場合は一番いいものができる気がしますね。
自分の理想の音楽を100点だとすると、それを目指していると100点は越えられなくて、むしろ60点くらいに感じたりしますが、でもあんまり考えずに好き嫌いの判断だけで曲を作っていると、なんとなくやった作業が120点とか150点とか出したりするんです。その瞬間は興奮しますね。
僕は自分の思考とか理想とか、全然信用してないです。全く頼りにならない(笑)。
ほとんどの曲は最初に録り始めたイメージとは違った感じになりますね。明るい感じになるかなと思ってつくっても切ない感じになったりとか。でもその自分の思っていたものと違うものに生まれ変わっていく方が、僕の場合は手応えを感じることが多いです。

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時間と生活

ー 家族で出かけたりとかはどうされているんですか。

あんまり出かけられていないですね。
さっき言ってた、まぐれがいつ出るかわからないので、制作期間中は出来るだけ毎日作業したいんです。でもまぐれが出る日か出ない日かって2時間くらい作業するとなんとなくわかるんです。だから午前中の段階で今日はまぐれ出なそうだなって思ったら、奥さんにどっか行こうって誘って午後をお休みにしたりしていて。かなり勝手ですが、奥さんもそんなに文句は言わないでいてくれて、感謝しています。
先のことをあまり決めすぎたくないんです。ライブとか仕事以外で、例えば友達と飲みにいくとか、そういう予定はできるだけはっきり決めないで1カ月後とかに先延ばしにして、みんなには「いけるかも」とか曖昧な返事をしてます。友達からしたらめんどくさいやつでしょうね(笑)。

ー 今の暮らしについてはどう感じていらっしゃいますか。

都会って色々やることあって、行く場所もいっぱいあるし、都会にいた時は自分で時間をつくらないと音楽をつくる時間が持てなかったんですけど、田舎だとやることないので、割と日常的に音楽をつくるようになりましたね。

スローライフとかよく言うじゃないですか。
でも田舎だとなんにも考えなくてもスローライフですよね。何も速くない。
僕はスローライフを求めている状態が一番実は幸せじゃないような気がします。
それって普段がしんどいほどに忙しいってことですから。
僕も奥さんもたくさん稼いでたくさんお金を使うよりは、少し稼いで少し使う方がいいなあと思っていて。
多少は自由に使えるお金があったほうがいいとは思いますけど、子供をなんとか育てられる程度で十分で、それ以上はお金を稼ぐことに無理したくないです。できるだけ自分の音楽や家族に時間を使いたいです。

ただ、最近思うことがあって、僕の住んでいるところは千葉の田舎のほうなんですけど、文化的な場所がなくて、そういう場所ができたり、もう少し面白い町になるようなことをやりたいと思うようになりました。
僕の町は畑とかに囲まれていて電車も最寄駅まで家から歩いて30分くらいかかるし、若い子が遊びにいくところというとカラオケとボーリングくらい。買い物も不便なので、若い子にとったらあんまり誇れる町じゃないのかもしれないとも思います。
居心地は悪くないし、嫌だとは思っていないにしても、自分の町がすごくいいでしょって言いづらいかもしれない。かと言って、東京に行けばいいというのも寂しくて、田舎にいながらバランスを取れるのが一番いいんじゃないかなと思いますね。
そのバランスが魅力になって、東京から引っ越してきたりとか、ミュージシャンが集まる場所になったりとか、ミュージシャンでなくてもおもしろいことを考える人が集まったりとかね。文化的に面白い場所になったら東京からわざわざ遊びに来たりとかするかもしれないし。

子供から学ぶ

ー お子さんが生まれてかわったことはありますか。

まず、音楽の姿勢がかわりましたね。
子供って当たり前なんですけど、すごくピュアで、やりたいことしか絶対にやらなくて、やりたくなかったら「うわぁああ」って叫んで、怒って、そういうの見ていてなんだか正しいなって思っちゃって。僕は自分をこういう風に見せたいとか、こうしたらかっこいいと思ってくれるだろうとか、なんかそういうことばっかりを考えて動いていたんだなと反省しました。本当は自分のやりたいことだけを追求して、あとはお客さんの評価に任せるでいいと思うんです。現実的なことを考えるとなかなか難しいんですけど、結局はそうなるしか道はないような気がします。

あとは小賢しいお父さんになりたくないですね(笑)。かっこつけているお父さんとか嫌じゃないですか。お父さんってずるい人なんだとか、器が小さいとか思うのはさみしいことだなと。それより好きなように生きているお父さんっていいなと思いますね。もちろん家族に迷惑はかけない程度に。
子供が生まれてからは子供に対して正直な自分でいたいと思うようになりました。音楽に対する姿勢にも筋が通った気がします。
あとわかりやすいところでは1日の時間の使い方が大きく変わったことはすごくよかったです。前までは夜中の3時までうだうだ作って朝11時まで寝て、また夜中の3時までしてってのを繰り返していて、それで結構毎日疲れていて。今は夕方になったら子供をお風呂入れたりするので、夕方5時や6時で仕事はやめて、夜も10時、11時くらいには寝て、しっかり睡眠とれて、体も健康になりました。田舎だからこういう風にできるのかもしれませんね。


音楽をつくるというのは簡単なことではない。
いいリズムやフレーズがいつも出てくるわけでもないし
一つの作品にするまでには身を削る思いでつくっていく。

宮内氏の楽曲制作は目標や理想を決めすぎず、
自身の確かなセンスを信じて突き詰めていく。

その作業は自分との対話、孤独との戦いだろう。

ある脳科学者の本に、モノゴトの発想には脳の空き地が必要だと書いていた。
宮内氏が、「先のことは決めすぎない」と言っていたことを思い出した。
それこそが宮内氏の制作に必要なことなのかもしれない。

宮内氏は今日もこうして日常のなかで音楽に向き合っていく。


宮内優里 official site

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